【DVD】サマリア
2008年 04月 18日
キム・ギドク観賞
■感想
うわぁ・・・重っ
■満足度
★★★★★★★ まんぞく
■あらすじ
警察官である父と二人暮らしの女子高生・ヨジン(クァク・チミン)の親友・チェヨン(ソ・ミンジョン)は海外旅行費捻出のために売春をしていて、ヨジンはそれを嫌いながらも、彼女が心配で見張り役として行動をしていた。しかしヨジンが見張りを怠ったすきにホテルに警官の取締りがあり、その手から逃れようとチェヨンは窓から飛び降りてしまう。
■コメント
どうも韓国映画を見ていないようだったので、何かひとつ観ておこうと思い観賞したのがこの映画。
他にも色々な映画があるにも関われず「よりによってなんでそれっ?」っという人もいるかもしれないが、キム・ギドクという監督にちょっと興味があったためこれを選ぶことにした。
恐らくは通常の韓国映画とは大きく異なる映画という事だが、そんな事はあまり気にしない。
いい映画が観られたと結構満足した。
難しい映画。
"こういう映画ですね"とも一言では言いづらい。
というか、そういう狙いの元に作られている気がする。
物語は三部構成になっている。
あらすじで書かれた部分は第一部「バスミルダ」
売春で稼いだ金をヨジンが返してまわる第二部「サマリア」
父親とともに亡き母親のお墓参りに向かう第三部「ソナタ」
全ての物語は繋がっているが、物語を動かす人物はそれぞれ違う。「バスミルダ」はチェヨン、「サマリア」はヨジン、「ソナタ」はヨジンの父親が物語を動かしている。それがわざわざ三部に分けた理由ではないかという気がする。
とはいえ、物語の構成や着眼点が面白いという映画ではなく、"観て"何かを"感じ"て何かを"考える"というような映画だと思う。
ヨジンとチェヨンの関係は、なんとなく儚げで、どことなく美しい。
ブッキングとお金の管理を担当するヨジンは、実は売春には否定的。知らない男とベッドを共にする事を非常に嫌悪している。
実際に行為を行うチェヨンは、体を売る事に抵抗はなく、むしろ自らすすんでといった風でもある。彼女は自らをインドにいたという伝説の娼婦「バスミルダ」と名乗る。
通常、役割的に逆になるであろう二人の思想に、ついつい引き込まれる。
二人の間には単なるの友情とは言い切れない関係があるように見える。
少なくともヨジンの側にはそれがあるように見える。
売春相手を毛嫌いするのも、自分には出来ないことを出来る相手への嫉妬の様な気配がするし、風呂に汚れを洗い流し行こうとするのも、チェヨンをキレイにしておきたいからという理由のように思える。
が、チェヨンは全く汚れているとは思っていない。
豚足の件もそうだが、その辺りの二人の価値観の違いは非常に面白く、興味を惹かれる。
チェヨンは、相手の求める事を瞬時に察する能力に長ける。子供のように天真爛漫でおつむがちょっと弱そうな感じがするのだが、その実なかなかに鋭い面を見せる。
が、そんな素顔を隠して普段は惚けた演技をしているのかといえば、全くそんな事はなく、彼女の笑顔は全て本物で、相対する人に心から向けられたものである事がうかがえる。
そんな難役のチェヨンをものの見事にやってのけるソ・ミンジョン。
凄い女優だと感心。
チェヨンを失った後のヨジンは、普通の価値観では考えられない行動にでる。
ここまで通常の価値観と違うと、反感を覚えたり嫌悪するより先に、その価値観の行き先を見てみたい気がしてくる。
「少しでも罪滅ぼしがしたいから」というヨジン。
売春後にお金を返す事でどうして罪滅ぼしになるのかは分からなかったが、罪滅ぼしをする事でチェヨンが見たであろう風景をヨジンも見たかったのだろうと想像する。
もしかしたらチェヨンは「お金は要らない」というスタンスだったのかもしれない。男を幸せにする事で彼女は満足していたので、お金は全てヨジンに預けていたような気がしてくる。
ヨンギは娘を大事にするあまり、ヨジンから離れられずにいる。
それは亡くしてしまった妻の分までヨジンを愛そうというそんな雰囲気のように見える。
そんな父親が気付いた娘の異常行動。
父親は"知ってしまった事を娘に隠す為"に、娘を更生させるのではなく売春相手を制裁する道を選ぶ。
この行動はなんとなく分かる気がする。
確かに本人に確認すれば手っ取り早いのだが、もし間違いだった場合、それは娘に"父親に疑われた"という深い傷を残す事になる。
"信じる事"と"疑わない事"は似ているようで全然違う。
娘が疑われていないと思うならば、その絆に傷を入れる事は得策ではない。
単に歪んでいるだけではない。深い愛情の末の結論だろう。
墓参りは二人の逃避行のようだった。
ヨジンにそのつもりはなかったろうが、ヨンギはヨジンと二人で妻の元に行きたかったに違いない。その覚悟と報告のために妻の下に訪れたような気がする。
それは自分無しではヨジンの生きる手段がない、もしくは生きる手段としてこれ以上売春に手を染めてまで生きていって欲しくはないと願った父親の切実な思いだろう。
が、ヨンギはヨジンが自分なりに強く生きていこうとしていることを知る。
「これからは一人で走るんだ。パパはついていかないよ」
ヨンギの切実な願いがその言葉に込められていた。
美しい山間部の風景は日本の景色とどことなく似ている。
その美しいシーンの中で迎えるラストは、人間を少し感傷的にする。
ヨジンはもしかしたら、父親が心中を図っている事を薄々気付いていたのかもしれない。
一生懸命書いてみたが、次に観た時には感じ方が変わってしまうかもしれない。
なんとなくそういう繊細さや巧妙さのある映画。
いつか必ずまた観るだろうと思いつつ、この監督の他の映画にも興味が出てきた。
≪追記するコーナー≫
なお、劇中インドにいたとされる伝説の娼婦"バスミルダ"。
実在するのかと思って調べてみたら出てくるのはこの映画の感想のみだった。
てっきり実在するものと信じてしまった。
≪感心するコーナー≫
有名無名は分からないが韓国の若い女優は作品のために脱ぐ姿勢に正直びっくりした。布地の少ない水着グラビアがポルノ扱いされる国だと思っていたのだが、映画では事情が違うのだろうか?
男女のキスシーンはないのに同性のキスシーンがあったり。
彼女達もしくはこの監督が特別なのかも知れないが、日本ではまずないように思う。
そこまでやれるのは宮崎あおいくらいなものか・・・
≪蛇足するコーナー≫
gooブログの禁止ワードが入っているらしく、gooブログへTBが送れない様子。
これでも結構更正したのだが、まだ足りないみたいなので断念。
多分「売春」がNGなんだろうと思っているが、そこはちょっと書き換えたくないので・・・
■状況
レンタルDVDにて
■対象
エンターテイメント色の強い映画よりも考える映画がお好きな人
■見所
ホテルの窓からチェヨンを観た後ヨジンがアイスをがさつに食べるシーン、"洗い流す"シーン、ヨジンの起床、見つめる父親の目、ストーキンファーザー、などなど。
全然関係ないが、韓国に手巻き寿司やドラえもんストラップがあると思わなかった。
by unknown0083 | 2008-04-18 23:57 | 映画